Discovery Hackathon 2021開催レポート<前編>
9月4日・5日の2日間にわたって開催した「Discovery Hackathon 2021」。今年で3回目の開催です。昨年に続き、今年も新型コロナウイルス感染症の拡大により、オンラインでの開催となりました。
今回はベトナムからハノイ工科大学の学生チームも参加し、国内外15チーム60名の学生たちが互いに切磋琢磨しながら、ものづくりに挑戦しました。
今回のハッカソンのテーマは「リカバー」。コロナ禍によって、日常が大きく変わりました。私たちが失ったものを、テクノロジーによってリカバーするためのプロトタイプづくりに挑戦します。
レポートでは、参加チームがアイデアからプロトタイプを生み出していくまでの様子を、<前編><後編>に分けてご紹介します。
2日間のプログラム
<DAY1>9月4日 | <DAY2>9月5日 |
---|---|
オリエンテーション インスピレーショントーク#01 アイデアデベロップメント ハッカソン ダイフクの紹介 インスピレーショントーク#02 メンタリング |
ハッカソン プレゼンテーション 審査 授賞式 |
オープニング
ー約30時間のハッカソンがスタート!
ロフトワークが運営するFabCafe MTRL東京・渋谷に設置したスタジオをハブにして、参加者や審査員、ゲストスピーカーをオンラインでつなぎ、進行します。ナビゲーターの池澤あやかさんとMCあまりさんの前には15台のPCがズラッと並び、各チームのブレイクアウトルームの様子を映しています。
池澤さんとあまりさんから、2日間のタイムテーブルやオンラインで使うツール、連絡方法などが説明され、Discovery Hackathon 2021のスタートです。ここから約30時間後に始まる各チーム4分間のプレゼンテーションに向けて、気持ちが高まります。
主催のディスカバリー・ジャパン合同会社、共催の株式会社ダイフクから開催のご挨拶がありました。
「今年も昨年に引き続きオンライン開催となりました。みなさんが情熱を持って、協力しあいながら良いものを作り上げてくれることを期待しています」(ディスカバリー・ジャパン合同会社 営業本部長 杉本 将さん)
「コロナ禍が続く中で、医療従事者の方々はもちろんのこと、おそらく参加者のみなさんも肉体的・心理的・経済的に耐えていることがいろいろあると思います。そんな今年のテーマはリカバー。変化に適応して日常を取り戻すための仕組みやシステム作りにチャレンジし、みなさんが思い描く新しい未来を見せていただきたいと思います」(株式会社ダイフク 取締役 常務執行役員 信田 浩志さん)
イベント開催に先立ち、参加者の手元にはイベントのオリジナルグッズを詰めた「2021BOX」が届いています。
- オリジナルTシャツ
- デザインマスク
- オリジナルステッカー
- ハッカソンに行き詰った時に開ける袋
- バンブーレモングラスの溶岩アロマセット ←NEW!
集中力を高めるバンブーレモングラスの香り。「離れていても他の参加者と同じ匂いに包まれて、一体感を感じられるように」と、今年から新たなグッズとして追加しました。
続いてダイフクによる会社紹介です。ダイフクは、1937年創業のマテリアルハンドリングシステムの総合メーカー。世界26の国と地域で事業を展開しており、売上高はこの業界で7年連続世界No.1です。
まずダイフクの製品を、総合展示場「日に新た館」の映像で紹介。
続いて、同社コーポレートコミュニケーション本部長 大岩 明彦さんより、ダイフクの事業内容と「今、物流の現場では何が起きているのか?」をテーマにお話がありました。
「この10年ほどの間に、日本でもネットショッピングが定着しました。さらにコロナ禍による巣ごもり需要が急増している今、物流センターでは『注文品を保管棚から取り出し、箱詰めして、出荷する』という膨大な作業が発生しています。人手不足や三密を回避するためにも自動化ニーズが高まっており、マテリアルハンドリングシステムは、人々の暮らしにとって“なくてはならない社会インフラの一つ”になっています」(大岩さん)
インスピレーショントーク#01
ーコロナ禍で失ったものは進化思考でリカバーせよ
その後、ランチタイムに行うアイデアデベロップメントに向けて、今回のテーマである「リカバー」をおさらい。
「リカバー」とは、単に冗長化やフェールセーフのような安全性に関する狭義の意味だけでなく、変化し続けられる仕組みや可能性をシステムに組み込むという意味も含まれています。
たとえば…
- 「共有体験」のリカバー
ライブ・旅行・授業など、その場に集まることで生まれていた体験をリカバーするには? - 「遠隔コミュニケーション」のリカバー
相手のちょっとした仕草や呼吸など、オフラインのコミュニケーションで感じ取っていた雰囲気をリカバーするには? - 「情報アクセス」のリカバー
外出や移動が制限される中で、街中や観光地など無意識に触れていた情報をリカバーするには?
「一度立ち止まって、『以前と何が変わったのか』『これからどう変えていきたいのか』を自分の中で問い直す必要がありそうですね」と話す、ナビゲーターの池澤さん。
ここから、さらにアイデアを深掘りするために、インスピレーショントーク#01として、NOSIGNER代表 進化思考家の太刀川 英輔さんをお招きしました。
多くの企業で創造性教育をされている太刀川さんは、著書『進化思考――生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」』(海士の風)を取り上げ、「人間が行ってきた科学的なアプローチは『予測(未来)』と『系統(過去)』、『解剖(内部)』と『生態(外部)』の4つである、と説明します。
「不確かな情報に惑わされることがあるのですが…」という参加学生からの質問に対し、「情報のつながりを辿って、複数のソースにあたること」「一次資料(古典)にアクセスすること」「『データに基づいた事実』と『感想・推測』をしっかり切り分けること」の3つが大切である、と説きます。
「仕事なら仕方がないけど、遊びでコロナに感染するのは悪だという風潮に違和感を感じます」という質問に対しては、今は正義と正義がぶつかっている状態です。絶対解はありません。だからこそ、それぞれの正しさがあるのだと互いに理解を示して知ろうとするしかない、というのが現在の難しさだと思います、と語りました。
これに対しMCあまりさんは「正しさよりも『適切』を、平等よりも『公平』を目指していくことが大切なんですね」と感想を述べました。
アイデアデベロップメント
ー明るい未来に向けて「リカバー」を追究しよう
12時からはランチをとりながら、アイデアデベロップメントを実施。各チームはオンラインホワイトボード「miro」を使って、以下の4つのプロセスでアイデアをまとめていきます。
- どんな状況を“リカバー”するのか
- なぜその状況を“リカバー”するのか
- 状況を“リカバー”するための手法
- “リカバー”するためのプロダクト
その後、各チーム2分間ずつプレゼンを行い、審査員からフィードバックを受けます。5名の審査員の中から、ここではクリエイティブコミュニケーターの根津 孝太さんと情報科学芸術大学院大学 [IAMAS] 教授の小林 茂さんにご参加いただき、より深掘りすべきポイントや、実際プロダクトに落とし込む際のヒントなど、さまざまな角度でアドバイスしていただきました。
各チームによるプレゼンで発表されたのは、
- みんなで集まってワイワイ盛り上がれなくなった状況をリカバーしたい
- 飲食店で罪悪感を感じてしまい楽しめなくなった状況をリカバーしたい
- オンライン授業で黒板の文字が見づらくなった状況をリカバーしたい
など、コロナ禍によって多くの制約を受ける日常に対し、「自分たちの手でリカバーしたい!」という学生のみなさんの切実な想いが込められたアイデアばかり。
審査員の根津さんは「審査ポイントには『熱量』も入っています。どのチームも熱量をすごく感じました」と語り、小林さんも「どれも面白そう。でも残り時間が丸一日ちょっとしかありません。ひとつの具体的な体験に基づくアイデアにフォーカスして頑張ってください」とエールを送りました。
14時から、いよいよプロダクト開発のスタートです。各チームがブレイクアウトルームに分かれ、ものづくりを進めていきます。
ハッカソン中のお楽しみコンテンツとして、YouTube Liveで視聴できるラジオの配信もしました。ラジオでは、Google Mapのストリートビュー機能を使って、参加者のみなさんが通うキャンパスをのぞいてみることに。
視聴者は、ささき製作所のクリエイター佐々木 遊太さんが開発した効果音やかけ声を送信し共有するツール「openSE」を使って、「いいね!」「うんうん」といったリアクションを送ります。openSEでは、ひらがな5文字以内のテキストを入力して自由な発言もできるため、スタジオと参加者が双方向でコミュニケーションを取ることができ、大盛り上がり!オンラインで離れていても、同じ体験を共有しているライブ感や一体感を感じることができました。
ダイフクプレゼン
ー世界を変えるために挑戦する半導体業界
19時からは株式会社ダイフク 取締役 常務執行役員 佐藤 誠治さんによる、半導体業界におけるダイフクの提供するマテリアルハンドリングシステムのご紹介です。
「2017年頃から2020年にかけて、ネット上で動画のアップロード数などが増えたことで、世界のデータ量は30ZB(ゼタバイト)から60ZBへと急増しました。さらにそこからデータ量は増え続け、2025年には160ZBになると予測されています。こうしたすべてのデータを扱っているのが半導体です」(佐藤さん)
半導体とは、導体と絶縁体の中間の抵抗率を持つ物質で、正確には集積回路と呼ばれます。
半導体をつくるには、「前工程」と「後工程」があります。前工程は、シリコンウエハに回路を焼き付けて形成する工程で、クリーンルーム内で生産する必要があります。800〜1200にも及ぶ工程があり、工場の広さはワンフロアでサッカー場3〜4面分、さらにそれが2〜3階あるという巨大なもの。その中に全長10km〜15kmもの「クリーンウェイ」というダイフクのシステムが使用されています。クリーンウェイは、1500台ほどの「ビークル」と呼ばれる台車に、ウエハを入れた「フープ」というケースを載せて、工程間の“搬送と保管”を行っています。
「半導体業界は本気で世界を変えたいと思って、ウエハの径を大きくしたり、回路の線幅を小さくしたりしながら、物理学の限界に挑んでいます。最先端では不確実が当たり前。そんな業界で最も大切なのは、『挑戦すること』です。うまくいかなくても何度でも挑戦し続けることで、これまで進化を遂げてきました。世界を変える技術者を目指す方は、いつでもチャレンジすることを忘れないでほしいです」(佐藤さん)
ダイフクの半導体生産向けの搬送・保管システムには、「ビークル同士がぶつからないようにするシステム」や「渋滞を回避するシステム」、「人がいたら安全のために停止するシステム」など、24時間365日工場を稼働するための高い技術力がつまっています。
続くレポート後半では、1日目の夜に開催されたインスピレーショントーク#02、そして翌日の審査発表の様子を中心にお届けします。